ぜぶらいと

オタクごと:リアルごと=8:2ぐらい。の予定。

「勝てない」キャラを好きになること -私にとっての日吉若という存在-

「今日もまた勝てなかったなぁ」

気付いたら声に出して呟いていた。

先日、テニミュ3rdシーズン 関東氷帝戦の東京楽を見て帰ってきた。一人暮らしの部屋で、誰が聞いてくれるわけでもないのに心の声を抑えることができなかった。

 

いい公演だった。そして公演の最後にはシャカブンを全力で楽しみ、幕が下りていくときには最大限の拍手を送った。興奮冷めやらぬまま、連番していた友人とカラ鉄テニミュ曲を歌いまくった後、その日の公演の印象に残ったシーンやキャラのことを語りつくすという、最高のアフターをした。満ち足りた幸せな気持ちでいっぱいだった。そのことは全く嘘偽りない。

けれども、「日吉くんが勝てない」という事実は揺るがないことを改めて認識し、胸がちくりと痛んだ。

 

15年以上好きな、テニスの王子様という漫画。

世間でも名作と名高い関東氷帝戦。私の一番好きな試合だ。それこそ幼いころから何度も読み返してきた。オーダーも各対戦の勝敗も当然そらで言えるくらいには頭に刷り込まれている。

私の大好きな氷帝学園は、私の一番好きなキャラである日吉くんは、負ける。この試合で彼らの夏は一度終わる。

漫画の展開がそうである以上、それを上演するミュージカルも同様だ。当たり前のことだが、この夏の東京公演、自分の観に行った6回とも日吉くんは膝をついて敗北をかみしめていた。観ていない公演だってそうだ。そしてもちろん、これからの公演も。計40回以上、同じ結果を迎える。

 

 

なんで日吉くんを好きになったのか。

自己満足を兼ねて振り返ってみる。初回登場時から好きだったわけではなかった。その頃は菊丸英二が一番好きだったし、当時小学生で青学を応援していた私にとっては、氷帝は「なんか嫌味」な集団であり、倒すべき相手だった。跡部様の良さも当時は全然わかっていなくて、なぜ様付けされるような存在なのかも理解できなかった。

 

邪道もいいところなのだが、日吉くんにはまったきっかけは、PS2のゲーム「学園祭の王子様」だった。いわゆる「学プリ堕ち」というやつだ。テニプリファンなら常識かもしれないが、このゲームは、ほぼ一切テニスをしない。乙女ゲーというもので、ひたすら王子様たちと恋愛を楽しめる。

購入当初は、当時の好きなキャラ達を一通り攻略して満足した。同じ学校のキャラだと、起こるイベントなども被っているものが多い。多少の飽きがきたのもあり、かなりの間放置した。

イベントなどが細かく思い出せなくなるぐらいには記憶が飛んだ頃、「久しぶりに学プリでもやろうか」と引っ張りだして一番に攻略したのは、なぜか日吉若だった。その時の気分だったのだろうか。理由は全く思い出せない。

学プリの日吉くんの立ち絵はなかなかにひどい。原作初登場時のきのこ頭をさらに誇張したような髪型。なんでそんなにギラギラさせた?と問いかけたくなる、どこか根源的な恐怖を煽るネコ目。正直、全くかっこいいとは思えなかった。それに加えて、決していわゆる「イケボ」とはいえない、カエルのような癖のある声。

好感度が低い状態で近づいて冷たい態度をとられるたび、「いや、ふつう氷帝学園にいたらお前じゃなくて宍戸さんか鳳くんに惚れるわ、ばーか」と思っていた。

…はずだったのだが、好感度が上がり、ぶっきらぼうだったり意地悪だったりする中に優しさや照れが見え隠れするようになってきた。ツンデレというやつだ。その頃になると、あの声が妙にクセになり、ずっと聞いていたいと思うようになってしまった。

「…あれ、私、日吉好きかもしれない?」その思いを確信に変えたのが、お化け屋敷のシーンとスチル。普段はクールな日吉くんがあれは反則でしょうよ。未プレイの方はぜひ。日吉ルート楽しいよ。

さらに好みのオチがついた。主人公はずっと「若くん」呼びをしていたのに、アフターストーリーで呼び捨てになる。記憶が正しければ、他の2年生キャラでも、こちらから呼び捨てになるパターンは珍しかったはずだ。同い年恋愛の呼び捨てフラットな関係が大好物だった私は、萌えの暴力に襲われていた。

 

それ以後、原作の日吉くん登場シーンをすべて読み直した。アニメも見れるところは見た。キャラソンにも注目するようになった。

日吉くんは常に前向きで努力を怠らない。いつだって上を目指している。自分にも他人にも厳しいその姿勢が恰好よかった。素敵な面をたくさん発見し、乙女ゲームの攻略対象としてだけではなく、原作でも一番好きなキャラになっていた。

 

日吉くんのキャラソンの歌詞は、どれも彼の強さと信念を表していて素晴らしい。曲数を重ねるごとに、しっかりした芯をもった日吉くんがもっともっと好きになった。

 

「諦めなんてきっと 弱さの言い訳 惑わない 明日を変えるまで」

「『いい奴なんてモンは臆病なだけだ波風立てたくないだけ』『遠慮する前にもっと 努力しろ!』って小3の俺は書いている」

「もっと もっと ジブン 超えたいよ 俺の 俺の 生き様なんだ」

「空を見上げ雲間を読めよ どこまでも高く飛ぶために 俺の時代はそこまで来ている いつまでも次期候補じゃねえ 悟り開け!今こそ」

「敗北感を後生大事にすんな 行こう 上には上がいるぜ」

 

いい曲が多いのでぜひ。しかも、シングルはトークタイムがとてもかわいい。キャラ崩壊してるようにも思えるから、ダメな人はダメかもしれないけど、私は好きです。そのキャラの信念とか、一番大事なものを曲げない限りは、ある程度の遊び要素は歓迎するゆるいオタクなんです。

日吉くんの宣伝ばかりで申し訳ない。けど、日吉くん好きな人がもっと増えて、お話できたら嬉しい。

家では眼鏡だとか、氷帝学園幼稚舎出身とか(OVAのとりひよの破壊力がすごいよ)悶えてごろごろできる設定が充実してるよ。この機会に日吉若にぜひ興味をもっていただければ幸いです。

 

 

私が、そんな大好きな日吉くんを2.5次元で生で初めて見たのが、この3rd氷帝公演だった。

 

越前リョーマが何人もいるって状況がおかしくない?○代目?え?リョーマくんの声が出せるのは純ちゃんだけじゃない?」

アニメに慣れ親しんだ私は、こんな考えやその他面倒くさい思いを抱き、10年以上、ミュージカルを見に行こうとは一切思ったことがなかった。今思えばとてももったいないことをしていた。

3rd山吹公演の大千秋楽前日、間違って取ってしまったチケットで渋々見に行ったテニミュにどっぷりはまることになる。このくだりも語りたいのだが、すでに長い文章がさらに長くなりそうなので割愛する。

 

 

私にとって初の氷帝公演観劇日だった2016年7月15日、日吉若は確かに存在した。

 

「なんで日吉くん役にこんなお目めの可愛い子もってきたの?切れ長の目の、薄い顔の子じゃなくて?ビジュアル全然違うし、たぶんハマらないな。日吉くん好きになれなかったら何公演も見に行くの辛いから、3公演しか取らんとくわ」

なんて舐めたことをのたまっていた私は、1幕が終わった時点で「日吉若が生きている、しゃべっている、動いている」という状態がただただ嬉しくて、涙を流した。

すっぴんはあんなにかわいい顔をしているのに、内海くんの日吉くんは、舞台上ではちゃんと日吉顔をしていた。動きも、「日吉くんが実在したらこんなことをするだろうな」「これももしかしたらするかもしれない」と思うことをしてくれた。

 

シャブい世界だと思った。

原作では、一切描写のない、関東氷帝戦での日吉くんのベンチシーンを見られる。もう夢だよ、こんなの。

ハイタッチを求められ、断るのかと思いきや、いやいやながらも、ちょこんと手を出して応対する日吉くん。

ジロちゃんのソロ曲で無意識に脚でリズムをとっていることを長太郎に指摘され、恥ずかしそうに膝をなでる日吉くん。

基本的には腕を組んで観戦しているのに、跡部・手塚戦だけは直立状態で応援する日吉くん。

 

テニミュの何が素晴らしいかって、自分の好きなところに注目して、自分の好きなように各シーンを見られることなんだと、みんなが言っていたこのことを、改めて実感した。

 

息もつかせぬ熱い展開を見せた3幕の跡部・手塚戦が終わって、ついに控え選手の日吉くんに試合が回ってきた。

 

私はただの日吉くん定点カメラと化していた。古田くんのリョーマの演技だって大好きなのに、本当に一切、日吉くんから目が離せなかった。途中でおそらく、リョーマの帽子が飛ぶシーンがあるのだが、全く気付いていなかった。日吉くんを見る目線上にリョーマがたまたま入った時に、失礼にも「なんで帽子とれてんの?事故?」と思ってしまったほど、日吉くんに集中していた。

リョーマがツイストサーブや零式を打つ瞬間。リョーマのセリフの瞬間。

原作やアニメならリョーマが抜かれるであろうシーンもすべて、日吉くんの表情やリアクションを追うことができる。

原作では上半身しか映っていないようなタイミングでも、全身を見ることができる。古武術の美しい動きを途切れることなく見ることができる。

本当に素晴らしかった。半年前に、たまたまテニミュにハマることができてよかったと心から思った。

 

試合後半。リョーマがベストテンションを発揮し、さらに調子を上げていく。日吉くんは、必死で対抗するもののどんどん追いつめられる。

苦しそうな顔になり、動きにも次第に余裕がなくなっていく。正直、辛かった。すべてのシーンを目で追えるというのは、素晴らしい。けれども、自分の好きなキャラが負けに向かっていく様子をすべて見れてしまうということは、こんなにも苦しいのだと気付かされてしまった。

最後まで勝負を諦めず、ドライブBに食らいついていく日吉くん。でも、届かない。

日吉くんは負けて涙を流す。テニプリにおいて、試合に負けて泣いていることがはっきりと描写されるキャラは、意外にも少ない。その中でも、冷静でクールな日吉くんは涙を流す。200人もの部員の思いを背負い、彼ら全員の夏を終わらせてしまったのだから、メンタルが強くてもそりゃ涙も出るよな。責任感の強いいい子だな。

そう思いながら、客席の私もぼろぼろに涙を流していた。

 

 

それ以降、当日券や譲渡で4枚のチケットを増やした。

日吉くんが負けるという事実は辛いけど、彼の試合をできる限り見届けたいと思った。

 

そして迎えた東京楽。

この日は、これまでより更にキレと格好良さの増した氷帝を見ることができた。

歌も動きも、みんな最初に見た時とは比べものにならないほどよくなっている。氷帝の校歌ではただただ圧倒された。

本公演は山吹の凱旋しか観に行ったことのなかった私にとって、凱旋公演もそれ以降のチムライ・ドリライも、2ヶ月以上そのキャラを演じてきたキャストさんを見ていたので、キャストさんが見る度にこれほど顕著に変わるのは初めてで、大変驚いた。

 

校歌の「見下してやる」の歌詞のところの日吉くんが、今まで見た中で一番日吉くん顔で、鳥肌が立った。リョーマを見るときの目も、どんどん日吉くんらしく鋭くなっていってる。ベンチでも、反応の仕方や動きに人間味が出てきた。

試合のシーンでは、古武術の動きによりキレが出て、流れるような動作になっていた。とりわけ横に飛ぶ動きが、大きく力強くなっていて、美しいと思った。

歌も大きく成長していた。特に「あがけ」の歌詞の「あ」の出し方が、強くてSっぽくなっていてすごく好みだった。最初に見た時より圧倒的に日吉くんだった。

 

それでも、試合で取れるポイントは変わらない。

日吉くんは、確実に強くなっていってるように見えるのに、結果としては負ける。再び涙が溢れた。

 

 

「一度でいいから日吉くんの勝った姿が見たい」

絶対にありえない展開であるのに、見ることはできないのにその思いが大きくなる。

クールな彼もガッツポーズなんかしてしまうんだろうか。

ニコニコというほどの笑顔ではなく、唇の端を吊り上げた薄い笑みを浮かべて「当然でしょう」なんて呟くんだろうか。

絶対に起こりえない状況を想像しては切実に願ってしまう。

 

贔屓目も入っているだろうが、日吉くんは決して弱いわけではないと思う。

なんせ関東氷帝戦では、ベストテンションを発揮したリョーマから4ゲームも奪っている。直前の校内ランキング戦で、リョーマvs大石くんが6-3だったことを考えると、すごい数字だ。

ジュニアからの経験者の多い氷帝学園で(OVAの現レギュラー情報なので、その他の部員は正確には不明)、おそらく中学からテニスを始めただろうに、200人いる部員の中で、2年生にして準レギュラー1番手の座についている。しかも次期部長候補。シングルスでなら長太郎にも勝っている。

乾先輩のデータに古武術スタイルが入っていないにも関わらず、「来年には確実に正レギュラーになる素質を持って」いると評され、さらに古武術の独自の動きに変えてから「急に伸びて」きたらしい。

また、あの真田に「来年の氷帝軍団を率いるのは間違いなく奴だ」とまで言わしめている。

新テニでは跡部様のタンホイザーサーブだって難なく返す。

 

 

ただ、それでも日吉くんは、勝てない。

関東氷帝だけではなく、全国氷帝戦でも負ける。

仮に新テニがミュージカル化されることがあっても、負ける。

私が、2.5次元の世界で日吉くんが勝った瞬間を見ることはおそらくできない。

 

 

あのまま、自分の中の1番が英二であったなら、どれだけ幸せだっただろう。

ここ最近、何度も考えてしまったことだ。

英二はそもそも試合が多い上に、勝率が高い。様々な公演での勝利と笑顔を見ることができる。

 

 

それでも、きっと私が1番好きなのは、これから先ずっと日吉くんだ。

いくら勝てなくても、それを見て胸が締め付けられても、彼を目で追ってしまうんだろう。

それは、痛みを伴いながらも私にとっての幸せだ。日吉くんのことが好きになれてよかった。

 

 

凱旋公演では、さらに強く美しくなって帰って来てくれることを期待している。

ただ、氷帝公演を舐めきっていたためチケット戦争に乗り遅れ、凱旋公演は初日の見切れを1枚持っているだけだ。

全力で譲渡を探します。ご協力いただける方はぜひ。笑

 

 

PS

ここまで書いて

「まともな試合描写があるだけでもいいだろ!」

って滝さんファンあたりに刺されそうな気がしてきましたが。

公式戦を複数回描いてもらえたということに本当に感謝してます。許斐先生、ありがとうございます。